産後の産褥期の
特徴と過ごし方
記事内容
産褥期(さんじょくき)とは、出産によって変化した母親の身体が元の状態に戻っていき、赤ちゃんとともに新しい生活をはじめる大切な期間でもあります。この期間には、さまざまな身体的な変化や症状が現れることがあり、適切なケアと生活習慣への注意が必要です。このコラムでは、産褥期の特徴と過ごし方について詳しく説明します。母体の回復を促し、健康的で穏やかに産褥期を過ごすためのポイントをお伝えします。
この記事は次のような人におすすめ
- 産褥期について知りたい人
- 出産直後の症状や過ごし方について知りたい人
- 出産直後の父親の役割について知りたい人
産褥期とは
出産直後、子宮は直径30cm以上に大きくなり、ほかの臓器も本来とは違う位置へ押し上げられています。また、通常とは異なるホルモンが分泌されていたり、分娩時に骨盤が大きく開いたことで骨盤を支える靭帯が伸び、骨への負担がかかっていたりします。出産直後の母体は、交通事故と同じくらいのダメージを受けていると例えられるほどです。このように変化した身体が、妊娠前の状態に戻っていく約6〜8週間の回復期間を産褥期といいます。この期間は体力やエネルギーを回復させるために、ゆっくりと休息をとるようにしましょう。
また、出血や腰痛、胸の張りなどの身体的な変化や、ホルモンの変化による感情の起伏も起こりやすくなるので、身体だけでなく心のケアにも目を向けてください。パートナーや家族、自治体、支援団体など周りのサポートを受けながら自身に優しく過ごすようにしましょう。医師の指導に従うことも大切です。不安なことがあれば、早めに相談してください。
産褥期によくある症状
出産後の身体や心理の変化によってさまざまな症状が現れます。症状には個人差がありますが、正しい知識をもち、適切な対処やケアをすることによって和らぎます。ここでは、それぞれの症状の特徴や対処法を詳しくご説明します。
悪露(おろ)
出産後、生理時の出血のようなものが約1ヶ月続きます。子宮内の組織や血液が排出されていて、最初は鮮血、だんだんと褐色やピンク色に変化していきます。産褥パッドや通常の生理用ナプキンで対応してください。
子宮収縮の痛み
妊娠によって膨らんだ子宮は、出産後に収縮して元の大きさに戻っていきます。この収縮による痛みを感じることがあります。とくに授乳時の赤ちゃんの刺激によって強まることがあります。痛ければ我慢せず鎮痛剤を飲んでかまいません。
外科処置
(会陰切開・帝王切開)の痛み
出産時に裂傷ができたり切開や縫合を受けたりした場合、しばらく痛みや違和感が生じることがあります。会陰裂傷縫合については、ドーナツクッションのような座布団を使用すると、傷口が座面に触れず痛みが減ります。会陰裂傷の痛みも帝王切開の痛みも鎮痛剤を使用できます。退院前に先生に相談しましょう。退院後、あまりに痛い場合や気になることがあれば、必要に応じて医師の指示に従って適切な薬や治療を受けましょう。
腰痛
妊娠中に負担のかかった腰部や骨盤が回復するなかで、腰痛を感じることがあります。また、産後の母体は筋力が低下しているので、骨盤が不安定になり腰痛を引き起こしやすくなります。正しい姿勢や骨盤ベルトなどの腰へのサポート、軽いストレッチや適度な運動で緩和できます。
便秘
出産後は、授乳による水分不足や生活の変化によって便秘になりやすいです。食物繊維が豊富な食事や十分な水分摂取、適度な運動を意識することで軽減できますが、育児でそれどころではないこともあると思います。便秘がひどい場合は産後の受診の際に相談しましょう。また、排便の際に会陰切開の傷が開くのではと心配になる方も多いですが、いきんでも開くことはほぼありませんので安心してください。
マタニティーブルー
ホルモンバランスの急激な変化や疲労から、気分が落ち込んだり感情が不安定になったりすることがあります。これは一時的なものであり誰にでも起こるものです。完璧を求めすぎず、なるべく睡眠や休息をとり、家族や自治体のサポートを活用しましょう。つらい時は我慢せずに受診して、専門家の助言を受けるようにしてください。
マミーブレイン
出産後、集中力や記憶力が低下することがあります。睡眠不足や慣れない育児などの生活の変化の影響と考えられていますが、明らかな原因は分かっていません。この状態も一時的であり誰にでも起こりうるものです。十分な休息や健康的な食事、適度な運動が改善に役立ちます。症状が長く続く場合は医師に相談してください。
産褥期の過ごし方
この期間の過ごし方は、出産後の回復と新しい生活への適応をサポートするために重要です。
ここでは、産後1〜2週間目、3〜4週間目、5〜8週間目の産褥期における過ごし方をご紹介します。
出産の大変さも産後の回復も個人差が大きいので、あくまで参考程度にご覧ください。
産後1週〜2週目
産後数日間は後陣痛といわれる痛みを感じることがあります。これは子宮が元の大きさに戻るときに感じる痛みです。退院しても回復はまだ完全ではないため、ゆっくりと休息をとることが大切です。家事を再開する場合は負担の少ないものからにしましょう。赤ちゃんのお世話にも慣れていく時期なので、赤ちゃんとの時間も大切にしてください。
産後3週〜4週目
悪露(おろ)や会陰切開の痛みがなくなってくるなど、身体的な回復が進みます。外出や買い物をすることができるようになりますが、まだ疲れが残る時期ですので、無理はしないこと、こまめな休息をとることを忘れないようにしてください。また、心のケアも大切です。パートナーや家族とのコミュニケーションを楽しみ、ストレスを解消しましょう。
産後5週〜8週間
かなり回復が進み、体力も戻ってきます。ただ、完全に妊娠前の状態に戻ったわけではありません。無理せず自分のペースで少しずつ元通りの生活に戻していきましょう。自分の体調を優先し、赤ちゃんとの時間も大切に過ごしましょう。
産褥期に注意すべき生活習慣
出産で母体が受けた負担を回復する大切な時期です。適切な生活習慣を守り、体力や心の回復に努めてください。医師や助産師の指導を受けながら、無理せず、自身の体調やペースに合わせた生活を意識しましょう。
お風呂は基本的にシャワー
出産直後のシャワーは、産後の体調によっていつからOKとなるかが異なるので、病院の指示に従い、しばらくはシャワー浴となります。いつから入浴できるようになるかは退院前の診察時に確認しておきましょう。
ダイエットは控える
産後すぐに体型が戻るわけではありません。開いた骨盤はおよそ3〜4ヶ月で自然と元に戻っていきます。1ヶ月健診で問題がなければ無理のない範囲で運動を開始し、約6ヶ月かけて元の体型に戻すことを目安にしましょう。とくに授乳中の場合は、栄養を十分にとることが第一優先です。急激なダイエットは避けてください。栄養士や医師と相談しながら、健康的に体重を減らしていくことが大切です。
水分をしっかりとる
授乳中は母乳に水分がとられるため、しっかり水分補給をするようこころがけましょう。水分が不足すると便秘にもなってしまいます。また、授乳中はカフェインのとりすぎやアルコールは控えましょう。
産褥期における
パートナーの役割
出産後の母体が回復する大切な時期です。この期間、パートナーの存在とサポートは非常に重要です。ここでは、産褥期におけるパートナーの役割についてご紹介します。
母親の身体的ケア
出産は母体にとても負担がかかるもので、母親は出産後、身体的に非常に疲弊しています。育児や家事は母親がするもの、とは思わず、体調を理解し、できることは積極的に行い母親の負担を減らしましょう。例えば、掃除や食事の準備、赤ちゃんのおむつ交換や沐浴などです。マッサージやストレッチなどにより母親が安心してリラックスできる環境づくりも大切です。
家事・育児
母親は身体が回復するためにゆっくりした時間が必要です。家事や育児のうちできることは積極的に担当し、日常生活での負担を減らしましょう。洗濯や掃除、食事の準備や赤ちゃんのお世話など、積極的に行うようにしましょう。
コミュニケーション
2人のコミュニケーションを大切にしましょう。感情や気持ちをちゃんと聞いて理解し、サポートをするようにしましょう。また、心のケアにも気を配り、必要ならば専門家の支援を受けるように促すことも大切です。男性も産後うつになることがありますので、根を詰めてがんばりすぎないで。
情報収集と相談
はじめての育児はわからないことが多くて当然です。産褥期に関する情報や、母親や赤ちゃんのケアに役立つ情報を積極的に収集しましょう。必要な場合は専門家へ相談することもおすすめです。情報と知識を共有することで、2人で協力しながら最善のケアができます。
産褥期に
関する
よくある質問
Q.
悪露が長引く場合、
何か問題が
あるのでしょうか?
A.通常、出血は徐々に減って4〜6週間で白や透明のおりものになりますが、長引く場合には注意が必要です。異臭や量が非常に多い場合は、医師に相談してください。
Q.
生理が再開するのは
いつごろですか?
A.個人差があり、産後2ヶ月で再開する人もいれば、2年かかる人もいます。母乳をあげていると分泌されるホルモンが排卵を抑えるので、母乳をあげている方は再開が遅い傾向にあります。
産後の産褥期の特徴と
過ごし方 まとめ
産褥期は、出産後の大切な回復期間です。この期間では、身体的な回復と心理的な調整が必要です。産褥期にはさまざまな症状が現れることがありますが、それらは一時的なものであり、適切なケアと生活習慣の調整で軽減できます。自身の身体の回復を優先させ、ゆったりと安らぎのある時間を過ごすことが重要です。身体的な負担を最小限に抑え、十分な休息をとりましょう。また、パートナーにも産褥期の重要な役割があり、家事や育児を積極的に行うことが大きな支えになります。そして、専門家のアドバイスやサポートを受けることも大切です。これらを意識しながら、健やかに育児生活をスタートさせましょう。
監修 稲葉可奈子先生(産婦人科専門医)