不妊治療の
種類と費用
記事内容
不妊治療は、不妊に悩む夫婦にとって希望となりうる道ですが、治療の種類や費用について詳しく知らない人も多いかもしれません。不妊治療は、不妊の原因や年齢、女性の健康状態などに合わせて選ぶものです。治療の種類や回数、使用する医薬品などによって費用は異なるので、医師と相談しながら進めていきましょう。
不妊治療は身体的、精神的にも大きな負担がかかるものですが、少しでも負担を減らすために種類や費用について正しい知識を持ち、適切な選択をすることが重要です。
この記事は次のような人におすすめ
- 不妊治療について知りたい人
- 不妊治療を始めたい人
- 不妊治療にかかる費用が気になる人
不妊治療とは
不妊治療とは、医学的な手法や技術を用いて妊娠をサポートすることです。子供を望んでいるにもかかわらず、なかなか自然妊娠ができない場合に行います。不妊治療には人工授精や体外受精、顕微授精や凍結融解胚移植といった種類があり、まずは原因を知るために検査を行い、それから治療の方法を決めていきます。また、年齢や健康状態などの要素によっても影響を受けるため、成功率は人それぞれです。そして、時間と費用もかかります。
女性の不妊について
女性の不妊の主な原因としては、卵子の質の低下や排卵障害、卵管の閉塞、子宮の異常などが考えられます。卵子の質の低下には年齢が大きく影響します。
男性の不妊について
男性の不妊の主な原因としては、精子の質や量の低下、精子の形態異常、射精障害、勃起不全などが考えられます。喫煙や過度の飲酒、ストレス、疲労などの生活習慣や健康状態も精子の質に影響を及ぼすことがあります。
不妊治療の成功率
不妊治療は長くかかることもあり、不安もたくさんあるでしょう。治療の成功率はさまざまなことに影響を受けるため、具体的な数字を出すことはできません。それでも、成功率自体への知識を深めることで、自身に合った治療法やタイミングなどを考えることができます。
不妊治療の成功には、不妊の原因や年齢、治療の種類、女性の健康状態などが影響していると考えられます。成功率を少しでも上げるためには、早めの検査の受診や適切なタイミングでの治療のステップアップ、個人に合った病院選びが重要になります。そして、医師や専門家のアドバイスを受け、現実と向き合った目標を立てることも重要です。治療の結果にかかわらず、パートナーや周囲のサポートを受けながら、前向きな姿勢でいることを意識しておきましょう。
不妊治療と年齢の関係
不妊治療において、年齢は重要な要素となります。高齢での妊娠を望む場合、より先進的な治療が求められることが多いです。体外受精や顕微授精などの高度な技術を使用することで、年齢による妊娠率の低下をカバーすることができますが、それでも成功率は年齢とともに低下してしまいます。同じ不妊治療をするにしても、年齢が若いほど成功率も高いので、早めの相談と行動が大切です。年齢とともに成功率は低下しますが、年齢だけで諦める必要はありません。医師のアドバイスを受けながら、前向きに取り組んでいきましょう。
不妊治療の種類
不妊治療にはさまざまな方法があります。ここでは7つの方法をご紹介します(併用されるものもあります)。治療方法は、不妊の原因や年齢、健康状態、不妊治療の経過・状況などに合わせて医師と相談しながら選びます。
- タイミング法
- 排卵誘発法
- 人工授精
- 体外受精
- 顕微授精
- 凍結融解胚移植
- 顕微鏡下精巣内
精子採取術
タイミング法
タイミング法は、男女ともに不妊の原因がとくにない場合、まず最初に選ばれる方法です。女性の排卵予定日を正確に把握し、その前後で性交渉を行います(1〜2日前が最も妊娠率が高いです)。排卵日に精子と卵子が出会う機会を最大化することで、妊娠の可能性を高めることが目的です。
正確なタイミングを把握するために、排卵周期の観察や排卵日予測検査薬を使ったり、病院で尿検査や超音波検査を行ったりします。卵管が閉塞している場合はタイミング法は行いません。
排卵誘発法
排卵誘発法は、排卵を促すために薬剤を使用する方法です。女性の卵巣に薬剤を投与することで、卵子の成熟と排卵をコントロールします。本来は排卵障害のある人向けの治療法ですが、成功率を上げるために排卵周期に問題のない人にも行われることがあります。また、人工授精や体外受精では排卵誘発法を併用することによって成功率が上がるため、これらを一緒に行うこともあります。
人工授精
人工授精は、細い管を女性の子宮内に挿入し、精子を直接注入する方法です。管はやわらかく、ほとんど痛みはありません。人工授精により、子宮から卵管まで自力で向かわなければならなかった精子の道のりをカットでき、受精の可能性を高められます。通常はパートナーの精液を採取し、病院で濃縮してから注入します。この方法は、男性の精子の質や数量が十分にあり、女性の卵管が閉塞していなくても、タイミング法がうまくいかない場合に選ばれるものです。
体外受精
体外受精は、受精を体外で行い、受精卵を女性の子宮に戻す方法です。まず、女性の卵子を採取し、男性の精子を卵子にかけて受精させます。受精卵が成長したら母親の子宮に戻します。戻す受精卵は、原則1回につき1個です。受精卵を直接子宮内に戻すことができるので、成功率がかなり高くなります。
体外受精は、卵管が閉塞している場合やタイミング法、人工授精で妊娠できなかった場合に選ばれることが多い方法です。
顕微授精
顕微授精は、顕微鏡の上で卵子に対して単一の精子を選び、直接注入して受精させる方法です。
これは、男性の精子の数や運動能力が低いときに適用されます。「精子を精巣内では作れているけど、通り道に問題があって精液中に含まれていない」という閉塞性無精子症の方も、この治療を受けることができます。
凍結融解胚移植
凍結融解胚移植は、受精した受精卵を凍結保存し、後日融解して子宮に移植する方法で、体外受精や顕微授精の一部です。体外受精や顕微授精によって多くの受精卵が得られた場合、余剰分を凍結保存することができます。凍結された受精卵は必要な時に融解し、女性の子宮内に戻されます。これにより、適切なタイミングで受精卵を移植し、妊娠の可能性を高めることができます。
顕微鏡下精巣内精子採取術
顕微鏡下精巣内精子採取術は、男性が精子を自然に排出できない場合や、精子の数が極端に少ない場合に選ばれる方法です。顕微鏡で精巣組織を拡大し隅々まで観察して、精子を採取します。
ほかの精子採取法と比べて精子を見つける確率が高く、質のいい精子を採取することができます。顕微授精と組み合わせて行われることがあります。
不妊治療の費用
不妊治療は、基本的に健康保険が適用されます。タイミング法や人工授精などの一般不妊治療や、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療が対象です。生殖補助医療では、採卵から胚移植までの一連の診療に適用されます。また、追加で実施される治療のうち先進医療に位置付けられるものは、保険診療と併用することが可能です。ただし、不妊治療の健康保険の適用は、年齢や回数に制限があります。
治療内容 | 自己負担額の目安 | ||
---|---|---|---|
一般不妊治療 | タイミング法 | 一般不妊治療管理料 | 750円 |
人工授精 | 人工授精 | 5,640円 | |
生殖補助医療 | 生殖補助医療管理料(月に1回) | 750円〜 | |
採卵 | 採卵術 | 10,400円〜 | |
抗ミュラー管ホルモン | 1,800円 | ||
採精 | Y染色体微小欠失検査 | 11,310円 | |
精巣内精子採取術 | 37,200円〜 | ||
体外受精 | 体外受精 | 12,600円 | |
顕微授精 | 顕微授精 | 14,400円〜 | |
受精卵・胚培養 | 受精卵・胚培養管理料 | 13,500円〜 | |
胚凍結保存 | 胚凍結保存管理料(導入時) | 15,000円〜 | |
胚凍結保存維持管理料(年1回) | 10,500円 | ||
胚移植 | 新鮮胚移植 | 22,500円 | |
凍結・融解胚移植 | 36,000円〜 |
厚生労働省 令和5年4月1日版「不妊治療に関する支援について」より
費用の目安であり、医療機関によって異なります。
不妊治療の費用を抑える方法
不妊治療は多くの夫婦にとって経済的な負担となるものです。費用を抑える方法をいくつかご紹介するので、できることから行ってみてください。
- 医師に相談し、必要な検査と治療に絞って無駄な費用を省く。
- 薬に後発品(ジェネリック)がある場合は価格が安い方を選択をする。
- 地域の支援制度を活用する。
- 健康保険の適用範囲を確認し、適用される場合は利用する。
安易な費用削減は治療の質を低下させてしまうことがあるので、バランスを保つことが重要です。また、治療によるストレスなどに対して心理的なサポートを受けることも大切です。医師や専門家のアドバイスを受けて、自身の状況に合わせた適切な方法を判断してください。
不妊治療のリスクと副作用
不妊治療にはリスクや副作用も伴います。例えば、体外受精や顕微授精などの高度な治療法では、卵巣刺激による多胎妊娠の可能性があがります。複数の受精卵が着床して多胎妊娠となることで、早産や出産時の合併症が発症するリスクが高まってしまうこともあります。
また、卵巣過刺激症候群という状態が起こる場合もあります。これは、卵巣の過剰な反応によって体内の水分バランスが崩れ、腹部の膨満感や体重増加、呼吸困難などの症状が現れるものです。また、不妊治療で用いられるホルモン補充療法や排卵誘発剤などの薬剤には、例えば、のぼせや頭痛、吐き気、腹部の不快感などが現れることもあります。不妊治療を検討する際には、医師と相談して詳しい情報を集めて、リスクと副作用を理解した上で適切な治療方法を選ぶようにしてください。
不妊治療におけるポイント
不妊治療は険しい道のりかもしれませんが、早めの検査、適切な時期の治療、信頼できる病院の選択は成功への鍵となります。医師のアドバイスに従いながら、自分たちの状況や希望に合った治療プランを作りましょう。
また、治療中のサポートや情報収集も大切です。一人で抱え込まず、パートナーや周囲のサポートを受けながら進められるようにしましょう。
早めに検査する
不妊治療でまず行うべきことは検査です。不妊の原因はさまざまなので、早めに検査を受けることで原因が特定しやすくなり、治療のステップを効率的に進めることができます。女性の場合は血液検査やホルモン検査、超音波検査、子宮卵管造影検査などを行い、男性は精液検査を行います。男女ともに検査を受けることが大切です。
適切な時期に治療を行う
不妊の原因や年齢によって、治療の効果や成功率は異なります。女性の場合は年齢とともに妊娠しにくくなる傾向があるため、早めの治療を検討することが重要です。また、治療方法によっても最適な時期が異なる場合があります。計画的にスケジュールを立てていきましょう。
適切な病院選び
不妊治療の成功には、適切な病院を選ぶことも欠かせません。信頼できる不妊専門の医師や病院を見つけるために、情報収集をしましょう。実績や評判、専門性や技術力、設備などを比較して検討してください。不妊治療は長期にわたることもあるので、信頼できる医療チームといい関係を築くことが成功への近道です。
不妊治療における
パートナー同士の連携
不妊治療は二人で取り組むものです。しかし、身体的な負担を考えると、どうしても負担は女性の方が重くなります。少しでもお互いの負担を減らすために、男性として行うべきことをご紹介します。
まず、積極的な治療への参加です。検査や精液採取、タイミングを合わせた性交渉などに積極的に取り組みましょう。次に、精神的な支えとなること。不妊治療で受けるストレスは大きく、悩むことは多いです。そういった悩みや気持ちに寄り添い、気遣うことが安心につながります。男性の存在とサポートは、不妊治療において大きな影響を与えます。二人で協力し合い、共に歩んでいきましょう。
それでもなかなか妊娠しない時はお互いつらいもの。疲れたらたまには休むことも検討しましょう。時間的余裕をもつためにも、先延ばしせずに済む妊活は早めに取り組むとよいでしょう。
不妊治療に
関する
よくある質問
Q.
不妊治療中でも
仕事を続けられますか?
A.仕事は続けられます。ただ、治療の種類や個人の体調によっては仕事量の調整や休暇が必要な人もいるので、専門医と相談して自身のスケジュールを立てることが重要です。また、職場から通いやすい病院を選ぶことも大事です。無理はしないように二人のペースで進めていきましょう。
Q.
不妊治療は副作用や
リスクがありますか?
A.不妊治療には副作用やリスクがあります。治療方法や薬物によって副作用が現れることがあります。また、検査や治療によっては多胎妊娠や感染症などのリスクがあります。医師や専門家の指導のもと、リスクを最小限に抑えるための対策を取りましょう。
不妊治療について まとめ
不妊治療は、さまざまな負担が大きいものですが、前向きに取り組むことが大切です。検査や治療の適切なタイミング、適した病院の選択など、ポイントを押さえることで成功率を高めることができます。
また、お互いにサポートし、理解し合うことは二人の絆を深めるとともに、治療の効果を高めることにもつながります。前向きな姿勢を保ちながら、お互いの思いや悩みを共有し、困難を乗り越える力を育んでいきましょう。気負いすぎず、気長に、二人の力を合わせて歩んでいきましょう。
監修 稲葉可奈子先生(産婦人科専門医)